One of a Kind, No Category~ミュージカル"The SIX"

先日、ピカデリー目抜き通りの一角はLyric Theatreで、ウエストエンド発ミュージカル”The SIX”を見てきました。
 
 
The SIXは当時ケンブリッジ大学在学中だった二人の学生によって製作され、2017年のプレミア公演依頼瞬く間に人気を博し既にブロードウェイやオーストラリアなど世界各地で上演されている作品。Queendomという独自のファンダムも存在するほど、コアなファンを世界中で獲得しています。
物語のあらすじは、ヘンリー八世の6人の妻たちが現代に蘇りガールズバンドを結成。誰が最も苦労したかによって、バンドのリードボーカルの座を競い合うが…という感じ。ミュージカルとはいえポップコンサートの要素強めで、上演時間も2時間弱。ミュージカルを見たのも劇場に行ったのも約2年ぶりだったので本っ当に楽しかった~!
主役の王妃たちは、
最初の妻:キャサリン・オブ・アラゴン(離婚)
二番目の妻:アン・ブーリン(斬首)
三番目の妻:ジェーン・シーモア(産褥死)
四番目の妻:アン・オブ・クレーヴス(離婚)
五番目の妻:キャサリン・ハワード(斬首)
最期の妻:キャサリン・パー(生存/ヘンリーの死)
の6人。このウィッチーズ5みたいなキラキラ衣装がハートに突き刺さる可愛さ!!

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王妃がそれぞれに語る(歌う)身の上話には、生前の苦労やヘンリーの妻としての正当性などが盛り込まれ、自身が王位を失う要因となった()内の内容がかなり重要な要素となってきます。Divorced, Beheaded, Die...のリフレインから始まるメインテーマ兼オープニングナンバー『Ex Wives』はかなりインパクト大。

個人的にいいなと思った点

①舞台美術
全体的にエレクトリックで現代的なセットですが、彼女たちの生きた時代はチューダー朝時代。時代的にも立場的にも宮殿や教会といった厳かな場が舞台となるわけですが、セッティングによってクロスが出現したりステンドグラスが浮かび上がったり玉座が降りて来たりして、ワンシチュエーションながら様々な場を表現していたのが面白かった。一方でヘンリーが肖像画を見てお妃候補を選んだエピソードを再現する時には、マッチングアプリを模した演出が入るなど現代的な使い方も。ちょっとアルターボーイズみたいな?構成にも近いものを感じた。
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オープニングナンバーで"Historimix"と自称しているだけあって、歴史的な物語を現代的かつ受け入れやすい形で再構築しているのがとてもエポックメイキングだなと思った。出来事は史実に基づきつつ、王妃たちのキャラクターは忠実に再現というよりは個性重視で脚色され、それが個人の衣装や持ち歌に表れており目でも耳でも飽きさせない。ちなみにショーにヘンリーは一切出てこず、バンドメンバーも全て女性で構成されています。6人の王妃たちは歴史的にもそれぞれ有名だけど、どうしても歴史編纂者、ひいては男性目線で語られがちだった王妃たちの物語を、彼女たち自身の口から語りなおすというコンセプトが良かった。パフォーマンスはキャサリン・ハワードの”All You Wanna Do"が特に好きかも。

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小柄ながらパワフル&セクシーでかわいかった
③多様性と21世紀のガールズパワー
上記に加え、SIXが特に優れているのは役者・キャラクター両方の素晴らしい多様性。王妃たちの人物像はもちろん、役者の人種も体型も様々で、非常にダイバーシティを感じると共にボディポジティブな印象も受けました。ウエストエンドだけでなく世界中のカンパニーでそれは共通しているように思います。
②でも述べたように、この物語は男性の目を介さないことによって"女性"という性に従属しない「個人の物語」を浮き上がらせており、彼女たち一人ひとりをヘンリーという存在に対しての相対的な妻という属性や立場で定義するのではなく、個人として尊重するというのがすごく良いなと思った点でした。シスターフッドという言葉も昨今聞かれるようになって久しいですが、この物語でも序盤ではヘンリーの妻として如何に良い存在だったかをアピールすることに固執して対立しあっていた6人がその呪縛から解き放たれ、個人×6の集まりとして女性同士の連帯を祝福する。客層も若い女の子が多いのかなと思ったら老若男女入り乱れて大盛り上がりで、こうした方法で楽しくエンパワメントされるのはすごくハッピーだよね~と思った。
とかなんとか言いつつ、結局は楽しいのひと言に尽きる!マスクしてるとはいえ全員声出しまくりクラップしまくりメイクサムノイズしまくりで、いいんか?!と思いつつ私も久々にfoofooできて楽しかったです。久々の高揚感でふわふわしながら劇場を出てしまい、パンフを買い忘れたので多分あと一回は行く。
 

 

ここからは余談(本題)
The SIXを日本人キャストでやるなら誰だ!!
という訳で以下はただの妄想です。
スペインからやってきた姉さん女房、国民からの支持も高かったアラゴンはめぐさんで。誇り高く毅然とした最初の妻で、王妃の座を追われる原因となったヘンリーの浮気相手にして後妻ブーリンとの絡みが多い。
アン・ブーリン渡辺直美/平野綾
このキャスティングは完全にキャストさんに引っ張られました。ぶりっこビッチキャラのブーリンにはコメディエンヌとしての側面もあるのでぜひそっちに振り切れる方にお願いしたい。斬首されたことをネタにしまくる強かさもあり、息子を生んで亡くなったシーモアが「母親を失った息子がかわいそうだと思わないの?」と同情を引こうとすると、「首を失った体がかわいそうだと思わないの?」とすかさず乗っかったり。入場時にファンと思しき女の子たちがブーリンのキャストが最高なの!と熱く語ってましたが、本当に納得でした。
産後の肥立ちが悪くそのまま亡くなってしまうシーモアは和音さんで。最初まり様もいいな~と思ったんですが高圧的な強さという面で和音さんに一票。ナチュラル地雷踏み抜き女の側面もあり、私だけがヘンリーが本当に愛した女よ^-^とさらっと自己紹介して全員をビキビキさせたり、天然発言でみんなを苦笑いさせるキャラでもある。
アン・オブ・クレーヴス=Crystal Key/
肖像画を見たヘンリーに美人だからと呼び寄せられたのに、実際見たらなんか違ったわという理由で結婚を無効にされたドイツ出身のアン・オブ・クレーヴス。私が見た時は小柄でかわいらしいキャストさんが演じてましたが、パフォーマンスは低音ソウルフルでめちゃかっこいいです。こぶしの聞いたナンバーをぜひゴリゴリに歌い上げて頂きたい。
キャサリン・ハワード平野綾/濱田めぐみ
恋多きセクシー系クイーン。少女のころから愛し愛された男は数知れず、でもヘンリーは一筋縄ではいかなかった…という感じの歌を歌う。彼女もブーリンと同じで後年斬首刑の憂き目に遭いますが、ブーリンほどの強かさ(厚かましさ?)があるわけでもなく、なんかやや幸薄な雰囲気も漂う。平間壮一さんでもいいと思う(?)
キャサリン・パー新妻聖子/Crystal Key
晩年にヘンリーに出会い死ぬまで連れ添ったキャサリン・パーはどうあがいても死ななそうな聖子ちゃんで。主張の激しい5人に対しちょっとマイペースなところもあるものの、終盤王妃たちに私たちは6人のうちの1人で優劣なんかない!と訴えて全員の目を覚まさせる存在でもあり、ヘンリーの愛より私にはこの6人でいることが大事、と言い切る精神的な強さを持った女性でもある。
そして私はこの演目をぜひ乱痴気でやっていただきたい。妄想なので帝劇主演級のキャストを揃えてみましたが、それこそアルターボーイズみたいにバリバリ歌って踊れる次世代の若手ヒロインを揃えてマルチチームでやってみても面白いかもしれない。そんなことを考えてしまうくらいには色々な意味で夢のある作品でした!