キャシャーン~濃い味の虚無~

キャシャーンを見ました。
 

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↓文脈です
 
2020年のロンドンで、給付金もnoteの投げ銭も貰えないのに400円払って一人でキャシャーンを見ました…。
2時間半と引き換えに得たのは強烈な後味と謎の食感。おかわりどうですかと言われるとあっ大丈夫ですって感じですが、でもこの味は確かにかつての私が好きだった味だなあ…としみじみ思い返しておりました。
映画としての評価は付けようがありません。でも観たのを後悔するほどのクソ映画だったかと言われると、そこまで悪し様にけなすこともできない。一体なぜでしょう。分からないので4年ぶりにブログを書いている次第です。
 
最初にダメポイントをまとめると、『徹底的な不親切さ』これに尽きる。
キャシャーン、まじでストーリーテリングの才能がなさすぎる!!
時系列の区別に法則性がなく、いきなりモノクロになったりカラーになったりするので、現実なのか回想なのか概念なのかが分かりにくく、とにかく今これを見せたいんだという気持ちが先行しすぎてストーリーの筋をぶった切っている。というかそもそも筋などない。点と点と点と点だけで最後まで突っ走っている。その合間をつなぐのが視聴者の想像力なり予備知識なりで、思い出したように挟まれる長台詞(主にナレーションと町医者のおっさんによる)で強引に事を進めているのである…。
 
そして映像がとにかく情報過多!!!!!
足し算に告ぐ足し算で引き算の美学など存在しない。新造細胞の説明シーンで流れる映像の数字が全部旧漢字で表記されてるのとか、読みづらいだろ…普通に…椎名林檎の歌詞カードでしか見たことないわこんなん。温室?中庭?で記念写真撮ってるところで蝶だか花びらだかがずっと降り注いでたり、夜~クソデカの月~とか、警備隊の人たちがつけてるやたら凝った造形のガスマスクとか露出の高いお姉ちゃんとナースにお世話されてる大滝秀治とか最早白ひげ。バカな息子を愛さないタイプの白ひげ。
本来脚本や音楽で担うべきところを全部視覚に突っ込んでいるため画面のカロリーが!!高い!!!
とにかくエネルギー配分が狂ってるため全てを画に全振りしており、映画そんな見る方じゃないんであれですけど、割とダメなやつだと思った。舞台とかでもあるよね、あ、この一枚絵の構図見せたかっただけのやつだな~みたいなやつ。書きたいシーンだけはめっちゃ力入れてるけどその前後がグダグダな二次創作みたいなやつ…
…今めっちゃ自分にもブーメランしたけど、そうこれ、勢いだけの二次創作に近いんだな…。そのため、大事なことが起こってるっぽいのに登場人物が一言も喋らないということが当然のようにあり、終盤でキャシャーンが時計の針にぶらさがって耐えてる(???)ところとか未だに良くわからないんですがあれは何が起きていたんですか?
序盤から怒涛のように繰り出される画力(えぢから)の強い構図に、これは完全に画で全てを語っていくスタンスなんだなというのが否応なく伝わり、かつそれで特に問題なく理解できてたのに戦いを終えた要潤が「分かったぞ…!そういうことだったのか……!」って全て合点がいったような台詞を残してこと切れたところは何一つ分からなかった。いやどういうこと?!?!待って置いていかないで!!!あとなんか宮迫の白昼夢でいきなりEテレみたいな作画になったりキャシャーンが叫んだらマスクがパッカーン!!って割れたのとかは純粋に意味がわからなすぎて笑った。
 
ところで、この映画の後味が何かに似ていたので記憶を辿ったところ。行き着いたのは『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY』通称リミスリであった。
何故この映画を見たのかは忘れた。多分WOWOWかなんかで深夜にやってたのを偶然見たんだと思う。はっきり言って特に内容はない。ないのだが、高橋一生写真家かつサーカス団の経営者で夜更けのバーに常駐する29歳という非常に情報カロリーの高いキャラクター・カイトを演じている。
 

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食らえ!高橋一生
画面もとにかくカロリーが高く、お砂糖でコーティングされたような、カラーフィルムに包まれたラムネのようななんかあっまいエフェクトがかかりまくっており、屋上の秘密基地とかネオンに彩られた地下サーカスとか電飾が瞬くお姫様ベッドとかが次から次に出てくるスイーツパラダイス。一昔前に流行ってた夢小説サイトのデザインみたいな画面が延々続く…白背景に透過画像の素材と点滅するアイコンとヘッダーとフッターに半角ポエム添えられてるあの感じだよおお!!誰かわかって…
もし私がこれをリアル中2の時に見ていたら、間違いなく人生狂うレベルでカイトに恋をしてジントニックにオレンジを入れる女になってたと思うけど、幸い30を超えていたので膝に矢を受けたくらいで済みました。あと「さくらん」とかも近いかもしれない。映像美は文句なしだけど映画としてのまとはりは「?」だから…短距離ランナーが長距離走れるわけじゃないように、映像作家が映画撮ったらそのままいい感じになるわけではないのだ。
こういう映画を見た後に思うのは、もう私はあの頃の、カラフルで甘いだけのお菓子じゃ満たされないように、視覚的な酩酊感だけでは満足できない大人になってしまったんだなーということです。でも逆に栄養なくてもたまにこういうジャンクなものが見たくなる時もある。
そしてこの中身スカスカなのにキャラクターの造形だけが異常に良い感じ、なんか思い出しません?そう、俺たちの大好きな舞台里見八犬伝だよ…
原作がなまじ有名だから設計ガバガバの不親切仕様でもなんとかついていけるこの構造、めっちゃ八犬伝じゃん。なんか探せば意外とこういう映画あるんじゃないかという気がしてくる。映像美やキャラの造形でいい感じに騙されてるけど、あなたの見ているそれはキャシャーンかもしれませんよ…?
 
他にも結構突っ込みたいポイントがあって、培養液がサラサラしてる割に這い出てきた新造人間たちが全員突撃○×どろんこクイズで不正解だった人みたいになってるのとか、赤子が凍死するレベルの極寒雪山シーンでお母さんが指輪したままだったりとか、野暮かもしれないけど整合性の面で気になるポイントが多々あった。
映画の良いところは、舞台と違って視覚的なリアリティを追求できるところだと思うのですよ。
死んだはずの伊勢谷友介がめちゃくちゃ質量ある感じで画面内に存在してるのとか、え?死んでるんですよね?ってまあ普通に考えればわかるでしょと言われればそれまでなんだろうけどもうちょっと死後っぽさだしてもよかったんじゃないのかとかなんとか…。
 
まあそれでも、監督はこの映画で己の美学を貫き、己の表現したいキャシャーンを撮り切ったんだろうな、ということだけは伝わる。わかりやすさ?知らん!大衆性?知らん!原作準拠?これは良くわからんが多分知らん!誰もまだ見たことのない、時代が追いつけないくらいの一番かっこいいキャシャーンを作りたい。その思いだけはめちゃくちゃに伝わってくる。わかったよ、もういいよ、休めっっ…!だって徹頭徹尾監督の考えた最高のキャシャーンなんだもの。編み上げニーハイブーツの麻生久美子が物憂げに革張りのソファに身を横たえたり、物心つきたての要潤が廃墟で日本刀発見したり、軍服に太刀を佩いた西島秀俊を血まみれにしてクーデター起こさせたりしたい気持ちはわかりすぎるのよ…。ミッチーだけで元が取れるから観て!!と言われたので観ましたが、まあ完全に取れたよね。
 

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文句の付けようがないミッチーこと内藤薫

まずビジュアルが5億だし、性格や立ち居振る舞い台詞廻しなどのキャラ造形が5億、死に様が5億です。我がキャシャーンに一片の悔いなし。内藤薫ってエリート階級に上り詰めなければ唐沢寿明とかと同じく新造細胞の素材にされてたってことなんですよね?え?それって同族嫌悪の同族殺しってやつですか?完全に私の好きなやつじゃないですか?映画の出来とかどうでもよくなるくらいミッチーがぶっちぎりで優勝してる。そしてミッチー含め登場人物を魅力的に仕立て上げることに関しては本当に一貫性があり、もし監督が懲りずにキャシャーン撮るってなったら、ユーキさんに出てほしいかも知れん。そういうパワーはある。
 

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いけるな(確信)
 
 
まあそんな感じで、虚無ですが味だけは濃いものを食べさせられた2時間半でした。
でもやっぱりなんか憎めない。憎しみを伴うほどのつまらなさではない。少なくとも目では楽しめたよ、目から受ける情報の多さに反して脳まで到達する情報の少なさにシナプスがバグってたけど…。こういうタイプの映画は望まれようと望まれなかろうと一定の頻度で生まれていくと思うので、寧ろ大衆に阿ったつまらない映画が量産されるよりは、これくらいトガったものがあってもいいのかもと思います。みんなたまには味の濃い体に悪い映画観よう。そして通風になろう。
はい、というわけで関西人じゃないので特にオチとかなく終わります。
お読みいただきありがとうございました。